いつもより早く出勤した銀治。スタッフ専用通用口のドア開けたと同時に、秋本のいつもの大きな声がした。
「おはようございます。」
「おはよう。毎日早いのぉ」そう言いながら銀治は自分のロッカーにスーツの上着を掛けた。
秋本は早出出勤し、これまで銀治と一緒に調査した時のメモを見ながら百合子の調査を組み立てていたのだ。
「今日は美山様にアポをとり、直接話を聞いてきます。主任のマネしてみます。」吹っ切れた表情で秋本が銀治に言った。
「こりゃーあんたの調査じゃけん、思うようにしんさいや。」銀治のたまに出る広島弁が秋本をリラックスさせた。
午前十時頃、秋本は美山百合子の勤務先へ電話し午後八時半のアポをとった。その会話を銀治は聞きながら、調査4課分の報告書を仕上げた。
報告書を完成さると、百合子の調査ポイントのまとめ作業にとりかかった。ふと秋本に目をやるとデスクで必死に何かを書いていた。調査ヒアリングの内容を組み立てているようであった。銀治は初めて見た秋本の表情に、彼女自身の心の壁にヒビが入ったことを確信した。と同時に行方調査の厳しさに直面しても彼女なら乗り越えてくれると信じた。
一方秋本は、この先の厳しい現実が待っている事を知る由もなかった。