銀治は3人が座る応接セット脇のシングルチェアーに腰を下ろした。
「美山様の調査を担当します、調査2課の逢川主任です。」と堀田が銀治を紹介した。GLエージェンシーでは浮気調査・素行調査系を調査1課、行方調査を調査2課、特殊調査を調査4課と分担課していた。銀治は2課と4課の主任で、2課と4課総勢8名の探偵を束ねていた。
牧野香織が調査内容の詳細説明を百合子に促した。
「生き別れた私のお母さんを探してください。」百合子の最初の一言には重みがあった。
およそ23年前の百合子が5歳の時、保育園に送っ後行方が分からなくなった母親の『美山小百合』の行方調査依頼であった。そして百合子は依頼に至った経緯を時折言葉を詰まらせながら話を続けた。
自身が保育士で、友香ちゃんを母親と生き別れた頃の自分と重ね、清美を実母の小百合と重ねていたのだ。この親子に出会う前まではいなくなった小百合を憎み続けていたが、清美の育児を目の当たりにし、脳裏にあった小百合との思い出が日に日に増してきたのだ。特に清美が作るお弁当に友香への愛を感じており、まだ自分が知らない事が沢山あるのではないか?この心境になった瞬間、小百合に対する憎しみが心の中から消えた。しかし、既に当時の事を知る父親は百合子が9歳の時に交通事故で他界、その後父方の祖父母に育てられたが、その祖父母も5年前に他界し百合子は孤独の身となった。
この日まで誰にも生い立ちを語らず、誰にも人生愚痴らず、たった一人で23年もの間孤独を抱えて生きてきた百合子。小百合が清美のような母親でいて欲しいという思い、生きていて欲しいと願い、そしてこれから二人で色々な事を叶えたい希望、そんな熱い気持ちが涙となって彼女の頬をつたった。百合子には姉妹もなく、父親・祖父母も他界し身内呼べる人は、もはや小百合以外には居ない。
銀治は百合子の思いを聞きながらポイントをメモした。それは単に探して逢わせて終わるような簡単な調査ではないからだ。
面談が終わった頃、外は街灯が点灯し始めていた。