入園式も終わり少し落ち着くツツジの咲く頃、百合子は個人的な所用で有休休暇をとった。彼女は予定の所用を済ませると、気分転換で滅多に行かないスーパーに立ち寄った。店内は夕刻という事もあり、多くの買い物客で賑わっていた。野菜コーナーも主要野菜は品薄状態で、品数も少なくなっていた。彼女は数種類の緑黄色野菜を選別し買い物カゴに入れると店内を歩きはじめた。鮮魚や肉のコーナーを素通りし、お菓子コーナーに差し掛かった時、通路に台車を止めて、数箱積まれた箱の中から商品を陳列棚に補充している女性が清美である事に気付いた。清美は中腰姿勢で補充に集中しながらも、通りかかる客にも明るく大きな声であいさつしていた。初めて目の当たりにした清美の働く姿に、百合子は呆然と立ち尽くしその様子を見守った。やがて自身の胸中で何かが騒ぎ始めた事に気付くが、一体それが何なのかはわからなかった。
視線を感じた清美は、視線のする方向に目を向けると、そこには呆然と立っている女性が。数秒で娘の担任、美山百合子だと気付いた。中腰姿勢で作業していた清美は、スッと立ち上がり百合子の元へ向かった。そして友香ちゃん一色の井戸端会議が始まったのだ。娘の事を誇らしく語る清美に、百合子は自身の胸中に巣食う虚しさを覚えた。短時間の井戸端会議が終わると清美は再び補充作業をはじめ、百合子は買い物を続けた。清算を済ませると客足が落ち着いた店を出、歩いて自宅へ向かった。
道中歩きながら百合子の心の中に、複雑な思いが日本海の波のように打ち寄せてきたが、自宅に着く頃には瀬戸内の波になっていた。