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探偵・逢川銀治「美山百合子」-9

2023/05/01

 調査2課の朝礼を終えた秋本の姿は、百合子の勤務先の保育園にあった。部外者は立ち入り禁止の時間帯であることから、園庭が見える所で眺めていた。園庭で遊ぶ園児を保育する百合子を見つけると、彼女の仕事ぶりを見ながら、秋本自身も保育士になる夢を抱いていた事を思い出したのだ。ふと百合子の傍にいる小さな天使に気付いた。

「あの子が友香ちゃんか。きっと百合子さんが園児の頃もあんな風だったんだろうな。」

友香ちゃんが右手の親指を口に入れ、左手で百合子のエプロンの裾を掴みながら歩く姿を見ながら、秋本は呟いた。

 遊び時間が終わり、園児は教室の中へ騒ぎながら入って行く光景を見届けた秋本は調査に向かった。

 ヒアリング調査で得た情報を元に探しまくる日々が続いたある日、秋本の前に地目変更・区画整理という壁が待っていた。彼女はその一つ一つを潰していき、徐々に母親の小百合に近づいているのであるが、近づけば近づくほど、遠のいているように感じる「錯覚」に陥っていた。彼女は気持ちを整理する為に喫茶店に入った。窓際の席に座り、バッグを横の椅子の上に置くと、ホットのブレンド珈琲を注文した。一口水を口に含み喉を潤すと、バッグの中から調査手帳を取り出し、1ページ1ページ熟読した。どこか盲点はないか?聞き損じはないか?自問自答しながら検証していった。2杯目の珈琲を飲み終えると、手帳を閉じバッグの中に収めた。伝票を持ってレジ前に行き精算して店を出た。

 秋本は喫茶店での自身の行動が銀治と同じだと気付いた。

「もしもし、秋本です。お疲れさまです。これから社に戻ります。」銀治に帰社報告をいれた。

「もしもし、お疲れさん。今日は直帰して調査の整理をしたらええよ。明日のミーティングで聞くけん。」秋本のどこか自信なさげな声に、銀治は帰宅を促した。

「わかりました。また明日報告します。」

「お疲れさま。ゆっくり休みんさい。」銀治と秋本の通話が終わった。

 秋本の頭の中に百合子と友香ちゃんの光景がよぎった。見つかるのか?逢わせる事ができるのか?思えば思うほど、考えれば考えるほど、不安の波が襲ってくるのであった。